AY's blog

思ったことをだらだら書いている。読んだら感想とか教えてくれたら嬉しい。

はじめての徹夜

宮崎県に住むいとこたちがこちらに来て一緒にディズニーランドに行く予定だった小4の2月3日、軽い発熱をして1人家にいた。

両親は数回分の食事と恵方巻を買い与え、妹を抱えてディズニーランドへと消えた。ミラコスタに泊まるらしい。

実は昼ごろから熱は下がり体調も良くなった小学生のわたしは、ディズニーランドに行くことよりも家に1人で泊まるということの方が何倍も魅力的に感じていて、家の周りを散歩したり、テレビを見たり、ピアノを弾いたり、好き放題していた。

 

夕飯前、母から電話が来て、恵方巻の食べ方を教えてもらった。

今年は北北西だから、お風呂の方を向いて食べなさい。あんた1人だから大丈夫だと思うけど、食べてる間は喋ったらダメだからね。それと、残すのもダメよ。

奥ではディズニーランドの喧騒と、妹のご機嫌斜めな声と、父の怒鳴り声が聞こえていて、やっぱり行かなくてよかったと思った。

電話を切り、テレビを横目で、ダーウィンが来たを観ながら、お風呂の方に身体を向けて、恵方巻を頬張った。

 

小さい頃って、特段好きなものだけ美味しく感じて、そうじゃないものは全部微妙って感じてた。恵方巻も、別に好きでも嫌いでもないから、微妙だなぁと思いながら食べ進めた。

あと、単純に恵方巻って大き過ぎて、小4のお腹には本当にキツい。

そんなわけで、半分ほど過ぎたところで、次の一口に進めなくなった。

残しちゃダメなのにどうしようと思うとだんだん焦って、ますます食欲が無くなるし、横目にうつるテレビでは猛獣が草食動物を捕食してて、ぜんぜん食欲が無くなった。なんかそういえば朝体調が悪かったんだ。こんなに食べて気持ち悪くなったらどうしよう。と思ったら気持ち悪くなってきた。

次の瞬間、どうしようもなくなって集中力が切れて緩んだ手元の恵方巻から、卵がするっと抜けて床に落ち、「あっ!!」と叫んでしまった。

終わった。

このままでは、禁忌を2つとも犯すことになる。

絶対に鬼が来る。

いつもは怒鳴り声の飛び交ううちのリビングに、テレビの声しか聞こえない。無人のお風呂からは風でカタカタと窓の音がする。暖房の音がやけに大きい。

このあと1人で過ごさなければいけない20時間を考え涙が出てきたわたしは、少なくとも、残さずに全部食べ切ろうと決心した。

 

そして、涙でしょっぱくなった恵方巻を、そこから1時間かけて食べ切った。お腹はパンパンで動けず、食べ切った瞬間虚しさでますます涙が溢れた。

母に電話して途中で喋ってしまったことを相談しようとしたが一向に繋がらず、心の底からディズニーランドに行きたくなった。

こんな理由でディズニーランドに行きたくなってごめんなさい。

その後、怯えながらもなんとかお風呂には入ったものの、電気を消して意識を失うという行為が怖過ぎて、朝までテレビを観て過ごした。

鬼が来るかもしれないから起きていたが、自分自身には、親に何度か電話していたので、折り返してくれた時に出られなければ心配をかけてしまうから、と説明した。

 

結局鬼も折り返しも来ず、これがわたしの人生はじめての徹夜となった。

翌日、学校から帰宅してすぐ眠ろうとしたところ親に叱られたが、強い気持ちで眠りに就いた。