恋人でも友人でもない人間と沖縄に二泊三日の旅行に行ったとき
快晴の海で遊び倒した熱い肌で地元の居酒屋に行き、海ぶどうをたくさんと古酒をたくさんお腹に入れ(ちなみに古酒モチベを高めるために、東京でアニメ版美味しんぼ沖縄編を視聴してから飛行機に乗った)、地元のシーシャ屋に行った。
強気なネオンに彩られたそのお店に若干の勇気を持って入ると優しそうな中年女性がカウンターに座っていて、わたしはこの人の作るシーシャは多分そんなに美味しくないだろうなってかなり失礼なことを思った。
テーブル席に案内され、ビール2つとおすすめのシーシャを頼んだところ、シーシャを作れる従業員が辞めてしまってシーシャは出せないという。
シーシャ屋なのにシーシャが出せないその状況で営業し続ける彼女の肝っ玉に感動したが、まぁ少し残念がっていると、自分で作れるのなら勝手に作っていいとはちゃめちゃなことを言い出したのでかなり笑った。
わたしの連れはかなりシーシャに凝っている人間だったので、その時ふたりしてハマっていたフレーバーでシーシャを作っていると次々とお客さんがやって来た。
気が付くとわたしの連れは沖縄のシーシャ屋で店員のようにせかせかはたらいて何台もシーシャを作っていて、わたしは動き回る彼が履く蛍光イエローの靴の残像に沖縄の夜中をみていた。
しばらくすると向かいのテーブル席に4人組が座って、彼らは決して嫌な感じではなく、気持ちよく酔っ払っていて、決して嫌な感じではなく、心地よく話しかけてきた。
聞けば彼らは近くのパチンコ屋さんで働く上司と部下で、部下のひとりはわたしと同い年だった。四年制の大学に通うわたしにとって、同じ年に生まれたのに社会に出てはたらく彼は大きく見えた。
ニキビが悩みだって上司に話してて、上司は全然気にならないよかっこいいよって言ってたけどそれは違うなって思った。気にならないっていうのはニキビに目を瞑ってかっこいいのであって。わたしは彼のニキビも含めて素敵だなって思った。絶対言わないけど。
いろんな話をした。わたしは大学ってどんなところかとか、東京がどんなに、面白くもつまらなくもない街かどうかとか、愛する人に裏切られた経験とか、そういうことを話した。
彼は、パチンコ屋さんでどういうお仕事をしているかとか、沖縄がどんなに楽しくて素晴らしいところかとか、愛する人を見つけてみたい願望とか、そういうことを話してた。
そのお店にはカラオケも付いていて、酔いも回ってきたし連れが永遠に店員しぐさをしていてずっとひとりぼっちなのを見兼ねた彼はわたしに一緒に歌おうと言ってくれた。
他にお客さんもいたからみんなが知ってるような曲にしようと言ったら島人ぬ宝になって、マジで全然歌えなかった。間奏部分をいちばん知ってるわ、なんなら。
そのあと東京の人にはこういうのがいいかな、って言ってスキマスイッチの奏を入れてくれた。
酔っ払って一緒に歌うにはしんみりし過ぎていて、長くて途中で飽きちゃったけど、こんな悲しい曲を楽しそうに歌う彼の表情を見てバカだなぁって楽しかった。
連れが戻ってきて、なんとなく挨拶もなくお互いの卓に戻った。
時刻は2時を過ぎていて、明日も海に入るからそろそろ帰ろうと腰を上げた。
パチンコ屋さんで働く彼はわたしの連れをわたしの彼氏だと思っていて、お幸せに、とか、そういうことをつぶやいた。わたしは、付き合ってないよ。この人、最高な友だち。って言ってみた。そしたら彼は、君の連絡先が知りたいけど、今、この瞬間の思い出にした方がずっと好きかも。って言うから、わたしも、そうだねって言った。
それで、普通にバイバイして、ホテルに帰って寝た。
彼のことは、翌日スキューバダイビングしてるときとか、飛行機乗ってるときとかは本当に忘れてた。
東京に着いて連れから旅行中のいろんな写真や動画が送られてきて、楽しそうにふたりで歌う動画もあったけど、保存しなかった。
なんていうパチンコ屋さんだったかとか、彼が、どういう顔をしてたのかも、正直覚えてない。
それでも、彼のおでことあごにできたニキビと、彼が語る沖縄と、高すぎる、まだ見ぬ恋人の理想はいまでも思い出す。
げんき?もう、覚えてないかなぁ。